要旨
●高所作業時に着用する安全帯と呼ばれる保護具について、厚生労働省は2022年から、より身体への負担が少ない「フルハーネス型」と呼ばれるタイプの着用を義務付けると発表した。●高所から墜落した時、着用していても怪我をしたり死亡する可能性もある従来のベルト型の安全帯では不十分であると考えられるためだ。●鉄道関連の工事でも高所作業を伴う作業は多数あり、より安全性の高い「フルハーネス型」への安全帯の更新を速やかに実施し、安全な作業環境を作ることが、質の高い工事、質の高い保守点検をする上で欠かせず、お客さまに安全安心をご提供する上でも非常に重要である。
今朝の日経朝刊に、安全衛生に関する話題があった(1)。
工事などで高所作業を実施する際は安全帯と呼ばれる保護具(安全を守る器具のこと)を装着し、万一、足を滑らすなどして墜落しそうになった時、安全帯がいわゆる命綱となることで墜落災害を未然に防止している。
しかし、現在主流の安全帯は腰に装着して使用するベルトの形状をしており、墜落時は全体重が安全帯を介して腰に集中するため怪我をする可能性が高く、あくまで墜落災害を防ぐことを目的とするものであった。このタイプの安全帯は適切に装着しないと墜落時に安全帯がずれて胸部まで移動し、墜落時の衝撃が内臓を損傷させたり胸部を圧迫する危険性がある。実際、墜落時の内臓損傷や胸部圧迫が原因の死亡事故が6件、過去10年のうちに発生している(2)。
そこで厚生労働省は高所作業における「フルハーネス型」の安全帯の使用を2022年度から義務化すると発表した。「フルハーネス型」の安全帯とは、複数のベルトを用いて体全体に取り付ける安全帯のこと。万が一墜落した時に、その衝撃を体全体に分散できることから、従来のベルト型安全帯に比べ大きな怪我を負ったり、衝撃による内臓損傷や胸部圧迫が原因の死亡事故等のリスクが軽減される。
5月31日付の日経電子版の記事によると、2017年の労働災害による死亡者は2016年を50人上回る978人だったそうだ。死亡要因として最も多いのは「墜落や転落」だったという(3)。高所作業時は安全帯を着用することは必須だが、してても重大な怪我をする可能性のある装備では不十分であることに議論の余地はない。
僕も実際、ベルトタイプの安全帯で吊り下げられる体験をしたことがある。腰道具の墜落回避の体験で、安全のためグラウンドレベルから徐々に釣り上げられる形での体験だったが、それでも腰に感じた負担はとても大きく、高所から墜落した時の全負荷が腰にかかると思うとゾッとした。それに比べフルハーネス型の安全帯は、体全体で負担を分散していることを実感した。
鉄道関連の工事や保守点検作業でも高所作業は当然発生する。墜落災害が発生し作業員にもしものことがあれば、作業員の大切な命を失い、その家族に深い傷をおわせ、お客さまにも多大なご迷惑をおかけすることになってしまう。
墜落だけを防止できる装置を採用するのではなく、いざという時も怪我をすることなく安全に墜落災害を回避できる装置を採用することが、作業員を守りお客さまに安全安心をお約束する上で絶対必要なのである。
法律の改正を待つことなく速やかにフルハーネス型の安全帯を導入し、安全に工事や保守点検作業にあたれる環境を整えることで、鉄道事業者は質の高い設備を獲得でき、お客さまに安全安心を提供できるのである。
参考文献
(2) 厚生労働省 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案等について